「ファン」


音大でジャズを学ぶため、僕は1998年に上京してきた。
その頃は、というと昔話をするオジさんのようで(心は違っても実際もうオジさんの年だ)煙たい奴のように思うかもしれないけど、少し書こうと思う。

学生だし、まずはとにかく練習して上達しないといけないので、頻繁にライブハウスに出歩くことはなかったが、それでも先生のライブや来日アーティストのライブにワクワクしながら足を運んだ。

その頃と今を比べると当時の状況はやや違うように感じる。どこでもというわけではないが、人気のお店は満員になることもよくあり、お店の外までお客さんが並び満席で入店を断っていることもあった。

もちろん、今もそういうこともある。
あるけど、昔にくらべると本当に少なくなってきたと思う。

その原因、というとネガティブな要素なようだが、様々な理由がある。2008年のリーマンショックや2011年の震災後の「控える」生活習慣、ジャズファンの高齢化。仕方がないこともあるが、他にも、店がミュージシャンを大事にしない、ミュージシャン側も店への配慮に欠ける、店とミュージシャンがお客を大事にしない、そんなこともたまに感じることがあった。

理由は様々ではあるが、要するに「昔はよかったな、お客さん沢山きてたよな。」「昔は店に常連のお客がもっとたくさんいた。」という会話を聞くようになってきた。

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先日僕のリーダーライブがあった。
音楽はメンバーの尽力のおかげでとても良かったと思う。
数年続けてきて自分の表現したいことが形になってきた。

ただ、正直お客さんの数は少なかった。

お客さんの数が少なくても、例えば一人であろうがもちろん一生懸命演奏する。大半のミュージシャンはそうだろう。
でも、お客さんもミュージシャンも、お客さんの数が多い方が良い。
ライブは生モノ。
お客さんの数で独特な緊張感が生まれたり、盛り上がったり、音楽に大きく左右する。

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最近のライブハウス事情。
本当にいつもガラガラなのか?
そんなことはない。
お客さんが入るときはたくさん入る。
しかしそれは、お店が好きというより、特定の好きなミュージシャンを追っかけているように感じる。
自分の好きなミュージシャンのみ。

いや、もちろんそれでいいのだ。
好きなミュージシャンを見に行きたいのは当然だし、ミュージシャンにとってもファンの一人一人の応援が何よりも大事でありがたい。

ただ特定のミュージシャンだけを追っかけるのは、勿体ないように僕は思う。
ジャズという音楽は多様性に富んだスタイル。
一人のミュージシャンが持つ様々なセンスを、様々なバンドで見ることができる。

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正直に書くが、僕は自分のファンがもっとほしい。もっと生で自分のリーダーバンドを見てほしい。

ただそれと同時に、自分のことより他のミュージシャンのこと、ジャズ界全体のことを思ってしまう。
このままいくと、ベテランも若い世代も、ミュージシャン’s ミュージシャン(ミュージシャンが認める本当にすごいヤツ)はどんどん仕事の場を失っていくのではないかと。
本当に素晴らしいミュージシャンなのにガラガラというのは、お店だけでなくミュージシャンやお客さんも含めて、音楽界全体にとってもとても不利益だ。


自分のファンの方にはこんなお願いをしたい。
サイドマンのライブも是非行ってみていただきたい。
リーダーではないミュージシャンを気になったら、是非その人のライブもチェックしていただけると嬉しい。

ジャズミュージシャンは本当に色んな活動をしている。
実力のあるミュージシャンは、かなりの数のバンドに誘われたり、ライブような表には出ないスタジオの仕事をしたり、仕事は多岐に渡る。
「この人、このバンドではあのバンドとは全く違う側面があるんだな」と感じることもあると思う。

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僕は「特定のミュージシャンのみ」ではなく、「音楽のファン」を増やしたい。

そんな想いの輪が広がれば、お客さんにとっては好きなミュージシャンの数が増えて、あらたな発見と楽しみが増えると思う。ミュージシャンにとっても新たな出会いも生まれるはずだ。

そして、もしかしたら昔のようにお客さんが戻ってくることもあるのではないだろうか。

もちろん一筋縄ではいかない。
みんな色んな努力が必要だ。
今まで通りで通用する時代ではない。
お店とミュージシャンがもっと寄り添い、みんなでこの先のライブ事情を考えていきたい。

2週間ほど前の新宿御苑。
銀杏の葉が舞い黄色い絨毯ができていました。

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